2023年も後半に差し掛かった2023年9月13日、GoProがHERO12を発表。
1インチセンサーを期待する声も多く上がる中、1/1.3センサーは据え置きのまま、話題は数日で鎮火。
もしGoProがHERO12を大型化し、1インチセンサーを搭載させていたら?
果たしてユーザーは満足だったのでしょうか?
GoProの暗所性能が上がり、5.3kは6kに上がり、使いやすいと喜んだかもしれません。
それともオーバースペックだと言われ、大型化は疎まれたのかもしれません。
いずれにせよ、アクションカメラは今、成長の方向性を問われ始めています。
GoPro・DJI・Insta360というトップ3社の、製品の特長と戦略を、ここで紐解いていきましょう。
【2005年】アクションカメラのはじまり
アクションカメラの元祖であり王者でもあるGoProが始まったのは、2005年のこと。
サーフィン好きの青年が、防水性のカメラで自分を撮影したくなったことが始まりでした。
サーフィンしているオレカッコいいぜ!
今や当たり前になった、スポーツ撮影や自撮りですが、この頃はまだ自分を撮影するという機械がなかったのです。
当時のGoProは、今とは違ってフィルム製。
いわばプロトタイプが2005年に作られました。
モンスター田嶋に見つかる
我らが日本の企業、SUZUKIの公式カスタムパーツメーカーも担う走りのモンスター「田嶋伸博」にGoProは見つかったのが2010年。
レースの車に付けてくれ!!
こうして初代GoPro HERO1は、正式にデビューを果たした。
初代からクオリティが高かった。
初代GoProの画質は1080p、いわばHD(フルハイビジョン)だ。
そう、初代の時点でYoutubeをPCで見たとしても、画素数が余ってしまう性能だった。
これは、当時としてはあり得ないほどの高画質だったそう。
もしかして、今伸び悩んでいるGoProは、初代から高すぎる性能故かもしれません。
初代から「リチウムイオンバッテリー」「防水ケース」「1/4インチネジによる固定」と、現在のスタイルに通じています。
もはや初代から完成に近かったのです。
その後、HERO3で既に4k撮影が可能となり、HERO5では手振れ補正を、HERO10では5.3kと、、、
進化を続けています。
HERO3の公式紹介動画です。
手振れ補正こそ現在に劣りますが、画質はこの時点で非常に優れていることが見て取れます。
しかし、近年伸び悩むGoPro
多くの人が感じている通り、GoProは近年伸び悩みを見せている。
HERO7辺りまで目まぐるしい進化をしてきた勢いは、最近では成長も頭打ちの印象を受ける。
GoPro株価の下落 ~2014年をピークに~
GoProのピークは2014年の10月、その頃の株価は86.97USDを記録している。ちょうど、HERO4が発売したころだ。
この頃から、GoProは一般の方に多く普及し始めた印象を受けている。
対して2023年10月現在の株価は2.66USD。単純計算で、GoProはここ9年で株価を1/30以下にまで落としている。
進化を続けるという呪縛
HEROシリーズが生まれてから、毎年のように進化を続けてきたGoProだったが、最近では進化のボリュームもパッとしない。
初代から高すぎた性能は、伸び悩みを見せるのも無理ないが、ここにきて毎年の進化に対して無理が出てきた。
これはHERO9辺りから顕著になり、ユーザーも気が付き始めたことで、旧型と比較して購入を渋るなどの動きがみられるようにも。
毎年進化をしてきたという王者の姿勢は、自らの首を絞めるような形にも。
弱気な価格設定
会社の方針についても、値下げによる需要喚起にカジ切りをしているようだ。
確かにこの物価高と円安の2023年に、HERO12は価格をほとんどつり上げず、非常に良心的な価格を維持してきた(サブスク加入者向け)。
これは、Insta360のGO3が、旧型GO2から大きく値上げをしたのを見ると、HERO12は実に弱気な価格設定とも捉えらててしまう。
実はGoProは、HERO5とHERO6の時にも売り上げ低迷で、大幅に値下げをした時期もある。
これは丁度、ドローン市場で勢いを失った頃に重なっている。
製品開発もネガティブに
まだ勢いが残っていた頃、GoProは360度カメラやドローン市場にも手を出している。
GoPro FusionやMAXといった360度カメラ市場や、Karmaといったドローンにも手を出している。
GoPro MAXについてはそこそこ普及した印象だが、現在の市場はInsta360に完敗してしてしまった。
Karmaは大きく失敗したようで、Karmaのリコール・従業員のカット・HERO5や6の大幅値下げと、社内や既存の主力カメラにまで影響を及ぼす痛手をGoProは受けることとなった。
今ではHEROシリーズに製品を限定し、シンプルで保守的な戦略を取るようになった。
アクションカメラでもトップを狙うDJI
一方で余裕があるのがDJIだ。
ドローン市場で単独トップに君臨し、敵なしの一強状態になってしまっている。
余裕のあるDJI ~製品の横展開~
2014年をピークに株価を下げ続けるGoProと対象に、DJIの成長は目まぐるしい。
2012年~2021年の年平均成長率は、なんと70%にも及ぶとのこと。
世界のインフレが年平均7%で推移することを考えると、DJIは世界の業績の10倍に及ぶ成長になる。
明らかに余裕のあるDJIは、ドローンだけでなく製品の横展開も多い。
DJIポケットは、他に無い手持ちタイプのジンバルカメラだ。TV業界を筆頭に、GoProと市場を食い合っている印象。2023年10月にも、DJI pocket 3が発表されました。
DJI Osmo Action4や、スマフォジンバルのDJI Mobile 6など、横展開した製品からは撤退する意思もまだまだ無さそうである。
アクションカメラは手軽さを重視
DJIのアクションカメラはDJI Osmo Action4。
こちらはクイックリリースシステムが秀逸で、ワンタッチで縦横にも取り付け可能。
王者GoProが本格アクションカメラとして、強固なマウントを手放せずにいる中、より手軽さをウリにしてきた。
防水性も18mという驚異の防水防塵性を誇り、性能以外の所でGoproに勝負を仕掛けている印象だ。
3社のうち最も元気な「Insta360」
3社のうち、アクションカメラ業界で今最も元気なのがInsta360だ。
他の企業が軽視した360度カメラという分野で、敵なしのヒットを見せている。
※2023年11月更新
Insta360が2023年11月に、ハイスペックとなる最新アクションカメラを発表。
長らくアクションカメラのトップに君臨していたGoPro HERO シリーズですが、評価が揺らぎそうです。
認知していない方は、ぜひチェックしてみてください。
360度カメラという革命
自撮り棒が消えるという「ほぼ魔法」。初見では何が起きているか分からない動画は、AIが上手く処理してくれる。Insta360という会社は、このAI機能も非常に優れている。
より手軽さを求める時代に、AIが簡単に編集してくれる機能は、一般ユーザーが何よりも求めていることだろう。
ライド系スポーツのトリックのように、本格アクションをしなくても楽しめる360度カメラは、誰でも扱って楽しいカメラとして、その認知と同時に購買欲求を駆り立てられる。
そのカメラに、本格アクションカメラの性能を搭載したことにより、Insta360は全方位カメラの市場で確実な地位につけた。
中国という環境を武器に
Insta360の業績は伸びており、日本でもその姿を目にすることは近年で圧倒的に増えた。
2016年に3億4770万ドルだった360度カメラ市場は、2023年には16億3000万ドルに及ぶと予想されている。
そんなInsta360がある場所は、中国の深センという場所。ここは中国のシリコンバレーとも呼ばれ、主に電子部品である半導体を使う製品が活発な場所だ。ちなみにDJIもここ深センに置いている。
1980年まで漁師の村だったこの都市は、明らかな急成長を見せた都市でもあり、ゆえに平均年齢はなんと32歳の若さだ。これは東京23区の平均年齢44.27歳と一回りも違ってくる。
若さは勢いに、中国の人口はヒューマンパワーに、確実に急成長を遂げたInsta360。
一方アクションカメラも「最適解」に
2023年ともなると技術力は出そろい、3社のカメラ性能はほぼ横並びに。
もはやオーバースペックと大型化が嘆かれる中、GOシリーズという小さな革命児を投入。
これは従来の本格アクションカメラとは違い、たいそうなマウントを必要としない。
帽子やTシャツにも取り付けられる小さなカメラは、私服にも馴染むアクションカメラとして、誰でも扱いやすい代物に。
小さなカメラゆえ4k動画は撮影できないが、手振れ補正やAIを駆使した自動編集技術で、動画や写真のクオリティに不満を抱くものは少ないだろう。
そんなGOシリーズの最新モデル「GO3」は、モニターも搭載して使い勝手としても完成された。
オーバースペックの市場で唯一、ユーザーの潜在的ニーズに寄り添った会社とも言えそうだ。
アクションカメラの必要の違い
そもそもの話、GoProはアメリカで出来た、あちらのスポーツのためのカメラだ。
ここで一度、アクションカメラの需要と日本のスポーツについて話しておきたい。
米国と日本の「オンド差」
GoProは今でこそ落ち着いたイメージがあるが、数年前のイメージはどうだっただろう?
僕が抱いていたイメージは、「チャラい、カメラ」だ。
日本人が行うスポーツの温度感に合っていない、そう言った方が分かりやすいかもしれない。
元々サーフィン好きの青年が、カッコいい自分を撮影するために生まれたGoProは、もちろんアクション系スポーツの自撮りに適した進化をしてきた。
モトクロスバイクの映像を撮りたい。
バックカントリースキーの派手な映像。
パラグライダーでの目線動画が欲しい。
どれも一般人の趣味程度では、なかなか到達できない、いわば「エクストリーム」な撮影に向いている。
Red Bullのあるオーストラリア、GoProの生まれた米国では、これらエクストリームスポーツは盛んだ。
対して日本人はそれほどでもなく、バイク・自転車・登山程度の「アクティビティ」に留まることが多い。
GoPro紹介動画のようなカッコいいアクションに憧れはするものの、冷静になると必要がない。
そんな海外の求めるアクションカメラと、日本の求めるカメラには温度差があるのかもしれない。
日本人にとっての「オーバースペック」
いわば「チャラい」撮影をすることが少なく、たいそうな手振れもヘルメットも必要としないような趣味において、GoProを含めたアクションカメラは「オーバースペック」なのかもしれない。
そして近年はどのカメラ性能もインフレ状態だ。
「iPhoneで良くね?」そう言われてしまえば、ユーザーが新しいアクションカメラを諦める理由としては十分すぎる。
そう。
身もふたもないことを言ってしまえば、多くの日本人にGoProほどの性能は、最初から必要ないのかもしれない。
活路を見つけたInsta360は、一般ユーザーへの意識も
GoProが必要な層には既に正しく行きわたり、スペック面では成長も乏しくなってきた。
各社は自社の製品を更新することが求められる中、新規市場という可能性も残されている。
360度カメラという革命
性能のインフレ化が進む中、別のジャンルを開拓したInsta360は、明確に活路を見つけたように感じる。
360度カメラは、AIにより自撮り棒もマウントも見事に消し去る。
そのシステムと特徴は、メローな趣味にも普通の旅行にも使っていて面白い。
なんなら、普段の生活の中にまで、360度カメラの面白さは潜んでいる。
今までアクションカメラを必要としなかった層にも、コレは刺さる。
Insta360の主力カメラであるX3の紹介動画だが、ぜひ意識して見て頂きたい。
今までアクションカメラを手にしていたような、エクストリームスポーツの動画はもちろん。
旅行やレジャーを楽しむ一般ユーザーにもウケる動画になっているのが分かる。
AIによるカンタン動画編集の様子も見て取れるため、360度カメラの敷居はグッと下がった。
こうしてアクションカメラという崇高な分野を、レジャーにまで落とし込むことでInsta360はより成功した印象を受けるのだ。
GO3という最適解
一般ユーザーという顧客を味方につけているInsta360は、よりレジャーに寄り添った製品も出している。
代表のGOシリーズは、性能のインフレ化と機器の大型化の流れに逆行している。
従来のヘルメットに付けるようなネジ式マウントから帽子へ。
ガッチリしたハーネスで取り付ける胸のマウントは、Tシャツにも取り付けられる磁石マウントに。
より簡単で、より生活シーンに馴染んだカメラが出来上がった。
もちろん性能はGoProに劣るが、技術もAI処理能力も向上した現代、GO3の性能で不満なユーザーは少数だ。
性能過多に気づいたユーザーから、より手軽なGO3が使いやすいと感じる方も増えている。
こうしてInsta360は、普段の生活や旅行に使えるカメラを作ることで、一般ユーザーを顧客とすることにも成功した印象だ。
それでもまだまだ360度カメラの仕組みすら知らない人が多い。
Insta360という選択を知らない人も多い。
着々と日本でも見かけるようになったInsta360の製品は、これから認知が進むにつれてより普及するかもしれない。
3社のこれからの動きに注目だ
GoProは360度カメラをほぼ撤退状態で、ドローンでも痛い目を見ている。
ゆえにHEROシリーズに限定したくなる気持ちも分かるが、あまりにネガティブな戦略も危険に感じられる。
多くのユーザーがオーバースペックと成長の限界を感じ始めた今、ますます新型HEROへの魅力が相対的に薄れるかもしれない。
そうなれば、GoProの性能について疑問を持ち始めるユーザーがさらに増えれば、これは危険な流れとなりかねない。
慎重になる気持ちは分かるが、早く打開策を打ち出していきたいところ。
一方で余裕なのがDJIだ。
急速に成長するドローン市場で確実な地位を築いているDJIは、アクションカメラで多少コケても軽傷だろう。
補うだけの余力が備わっているはずだ。
ゆえにこれからも製品の横展開と新型へのアグレッシブな姿勢を、しばらくは魅せ続けるだろう。
Insta360も、この流れに乗り続けたいところ。
農業や産業で活躍する場面は限定されており、ドローンほどの市場の急成長は見込めないだろう。
360度カメラの伸びが良いとはいえ、所詮は趣味。
いわゆる「エンタメ系」の域を脱することは今の所難しそうだ。
ゆえにこの地位に胡坐をかいて鎮座することはできないと考えられるため、これからもアグレッシブな姿勢を見せ続けると、個人的には予想している。