今回も例の如く、記録は「だ・である調」を意識する。雰囲気を出す目的と、普段と違った文書作成の技術取得を目的としている。
また、写真は@tbs0412 @kotorihairmake @mcdulltingtingting お三方の写真もお借りしている。
【Day1】14㎞の林道歩行と金木戸川遡行
双六川水系
歩行の開始は双六ダム手前。まずは双六川右岸の林道を歩行する。
ここから14㎞、長い長い林道歩きが始まるのだ。
程なくすると双六ダムに到着。
ダム横ではトンネルの掘削作業やらをしていた。
未知の建造物は大好物なので、施設見学を楽しみながら進むことが出来る。
双六ダムを超えて30程だろうか、こちらは金木戸発電所と書かれている。
発電所の割に、無駄に電力を消費してそうな白熱灯。その光に集まったであろう、壁にこびり付いた昆虫の残骸。当時の定番カラーと思わしき、くすんでしまった桃色の扉。
すべてが香ばしく感じる。
神岡という地名も、工業の匂いがプンプンしてよろしい。
建造物の他にも、手彫りのトンネル…いや、手彫り隧道まで楽しませてくれる。
おまけに生きた林道だ。14㎞道のりは、歩きやすく何の退屈さも感じさせなかった。
このほかに、金木戸ダムや池の尾発電所など、随所に見どころが確認された。
お昼になってしまったが、林道最後のチェックポイントである取水ダムに到着。ここで実質林道が終わっていたが、廃道化した林道がついているらしい。
廃林道もそれはそれで興味があるが、今日の目的地は野営地。
水量が少なかったため、金木戸川の本流を直接行くこととした。
高原川から20㎞ほど離れているとはいえ、まだまだ本流らしい、開けた渓流。
なんならここで野営をしてやりたいほどの好条件。
本流らしい景色も数百メートルで終了。
穏やかな渓流と、当時の残骸と思わしきワイヤーがなんとも言えない。
本当に、なんとも言えない感情にさせるのだ。
ほらもう、こんなつり橋なんてのは、好きな方は多いのでは?
それもそのはず、この辺りのエリアは、まだまだ廃道が続いているからである。
実はここ、60年前までは鉄道が走っていたというから驚きだ。
戦後の森林鉄道「双六・金木戸森林鉄道」は、1963年に全線を廃止している。
放置されたつり橋は、今は何を考えているのか。消えかかるものには、どことなく諸行無常的なものを感じる。
立ち入り禁止の看板も、どこを示しているのか分からないほどの状態。
本当にここに道が通っていたのか?建造物なんてのは、半世紀もすれば自然に取って代わられてしまうものだ。
人の手が入らなくなった今、そこはただ綺麗な水が流れる渓流へと戻っただけ。
我々は、そんな歴史と自然の狭間に遊びに来ている。
…
話を沢に戻そうか。
時刻は17:00
ようやく本日の野営地に到着。
場所は金木戸川にそそぐ支流、打込谷の支流との出会だ。
明日は打込谷を遡行する予定。
濡れてしまった服たちは、焚き火で干して軽量化しておく。
【Day2】打込谷遡行
さすがにここは支流の打込谷、昨日と変わって水量も半減している。
とはいえこの巨石の連続だ、増水時の威力がどれほどのものか、想像もつかない。
ここ双六川水系は、その谷の深さから多くの釣り人が鉄砲水により命を奪われているそう。
一服しているこの場所も、増水時は水に浸かることだろう。
怪我、遡行する谷の間違い、タイムオーバー、天候、、、
電波も通らない、人里からあまりにも遠い場所。総合的に危険度が高まっていくのが、沢登りの難しい所である。
出発してから1時間ほど、18mの滝「F2」に道を阻まれる。
地理院地図には乗っていないが、滝は突然現れるもの。
事前に情報を入手しておくか、そうでなければ万全の装備で挑戦する必要がある。
今回もリーダーについていくだけだったが、そろそろ自分でも考え始めなければいけなさそうだ。
今回はパーティの力量・苔の状態・時間も加味して、ここは登らず。
仕方が無いので、代わりと言っては何だが水中の状況を見ておいた。
日も差さない、身体もまだ温まっていない。北アルプスから集まる水は、こうも冷たいものか。
ちなみにここに、魚はもう居なかった。
さて、滝は登らずとも標高は上げなければならない。
幸い左側の巻き道は悪くない。
滝を巻いた後も、小さなゴルジュに阻まれる。
巨石が2つ、ハングのように覆っており、水中からの取りつきも悪そう。
やはりここも、巻き道を利用。
今回は右側を上がるが、どうやら踏み後が少し残っていた。こんなところを歩くモノ好きが、日本には一定数いるから感心する。
ロープを出すが、いつだってリードはロープ無し。
自分の手足と脳みそだけが頼りの綱。
とはいえ後続はロープがあるから安心だなんて、僕は全く考えていない。
手をかける岩の感触は、わずかな柔らかさを感じれば崩壊を予見する。
足の裏の摩擦力は、掛けられる体重の量と比例する。
せっかく備わった優秀な感覚だ、丁寧に、慎重に、確実な一歩で体を進める。
本日の核心は3段の滝。
右の斜面からクリアできそうではあるが、いかんせん奥の状態が分からない。
パーティ全員が安全に進むためにも、ここは巻き道を使用。
滝の後は大きくU字を描いているので、稜線を跨いで一気にショートカットすることに。
川がうねっているのには理由があり、たいていこの手の地形は硬い岩盤が走っているという。
そんな地形はゴルジュなり、なんらかの「悪い」場所が続く可能性がある。
時間を気にするなら巻いてしまった方が賢明だ。
背丈ほどのクマザサを両手で握り、身体を引っ張り上げる。
それにしてもフェルトのソールは山に弱い、次はラバーの靴を買おうか。
巻きが終わり、どうやらゴルジュも終わったよう。
そこには焚き火の跡か?それとも失敗した跡か?
流木が集められた形跡が残っていた。
今年は雨も少なく、水量もとことん少なくなってきた。
それでも災害級の大水が出ることも在るのだろう、巨石と大木が積み重なっている。
伏流水のようになっている場所も、あそこまで水かさが増えるのだろうか。
本日のように穏やかな水量の日は、どこを選んでも楽しい大滑遡行が出来るのだ。
沢屋さんの沢屋さんによるの沢屋さんのためのビバーク地を発見。
本日はここ、1920m地点を目標にしてきた。
情報にあったとはいえ、本当にこんな見事な野営地が残されているとは…
表は笠ヶ岳稜線、裏は黒部五郎岳。
無料の宿としては、贅沢すぎる立地である。
設営を済ませ、しばし黄昏る時間としましょう。
本日のメインは、茄子とウインナーのホイル焼き。
トマトソースとチーズのタッグに、シソという組み合わせは驚いたが、これがなんとも美味い。
バジルの代わりにシソもいいかもしれないと思った次第。
【Day3】打込谷終点より笠ヶ岳山頂へ
三日目は流石に大滝は現れない。
それでも絶妙に悪い場所は現れるので、落ちることだけは避けるよう慎重に進む。
標高は2000mを超え、ここまで水量も減った。
それでも岩のサイズはこの大きさ。
上流部では稜線に上がれば流石に逃げられるが、本流部の谷では逃げようがない。
下の増水がいかにして作られるか、上流部を見ることで想像がしやすくなるものだ。
爽やかな小滝も、危険ならば避ける。
自分の力量を見極め、身体能力が勝る場所ならチャレンジする。
上流部は開けた場所が多くなり、各々が力量に合わせた場所を選択できるようになった。
そうしていよいよ水は枯れ始め、谷が終わりを告げる。
残るは笠ヶ岳に続く稜線へと詰めていく。
にしても、足が悪い。
砂地を行っても草を踏んでもフェルトは滑る。
稜線の岩場では、やわらかいソールが足つぼの役割を果たしている。
さすがに疲れているのだろう。
標高も相まって、しっかりと息切れをしている。
山荘手前では、笠ヶ岳特有のフレーク状の礫。
将棋崩しのように引き抜けば、上からデカいのが落ちて来るやもしれない。
コイツ等に斬殺されるのはゴメンなので、中途半端な体重の載せ方だけはしたくない。
笠ヶ岳山頂はあいにくのガス。
サンダルと半袖に履き替え、さっさと笠新道を降りて岐路につく。
「さっさと」とは言ったものの、3日分の疲労とサンダルだ。
いくら一般道と言えど、そろそろ足も限界である。
到着は17:00
ようやくシャバに辿り着き、3日で一番大きなため息をついた。