シルナイロンは、片面シルと両面シルにも分けられるってことをご存じでしたか?
この記事は、軽量テントにはポリウレタンとシルナイロンの2種類があることを、ある程度認知している方に向けています。
今やガレージブランドやニーモのみならず、モビガーデンや3F UL GEARといった中華ブランドまでが、積極的にシルナイロンを採用しています。
多少のデメリットはありますが、圧倒的にメリットの多いシルナイロン。
ですが、片面シルナイロンの場合はちょっと注意が必要かもしれません。
今回はちょっとマニアックだね!
シルナイロンとポリウレタンについての理解をしたい方は、まずはこちらをご覧ください。
では、参りましょう!!
まずはちょっとおさらい。
テントのコーティング素材について。
ポリウレタン皮膜
まずはざっくりと、ポリウレタンについておさらい。
テント生地であるナイロンの裏地として、防水のためにポリウレタン皮膜で処理されます。
- (メーカー的に)製造しやすい
- (メーカー的に)安価な材料
- シームテープ処理が可能
- (ユーザー目線)製品が安価
- 5年程度で劣化が始まる
防水皮膜としてのポリウレタンは、ナイロン製テントのコーティングとして最も普及しています。
モンベルやアライテントなどの一流ブランドから、Amazonで見かける超安価な量産テントにも使われます。
扱いやすい・量産が可能・安価に製造可能という、メーカー側のメリットは大きい反面、ポリウレタンは劣化が避けられません。
だいたい5年程度から、加水分解が始まるともいわれます。
これには僕もやられたよ…
管理の良し悪しはあれど、避けられないよね^^;
劣化した皮膜は、ポロポロとしたゴミになります。
使い物にならなくなる&直接的なゴミ(マクロプラスチック的な)も出るため、SDGs的な観点からもあまりよくない気がします。
両面シルナイロン
シルナイロンは近年、ガレージブランドやちゃんとした中華ブランドが積極採用しています。
ポリウレタンに比べて、圧倒的メリットが多い防水処理ですね。
そしてこれを、狭義の意味で両面シルナイロンと言います。
- 耐水性が高い (ポリウレタン比較)
- 劣化しにくい (ポリウレタン比較)
- 引き裂き強度も高い(ポリウレタン比較)
- (メーカー的に)製造が難しい
- (ユーザー的に)シームの自己処理が必要
- ツルツルしすぎていて、ちょっと滑る。
シルナイロンはポリウレタンと比較して、引き裂き強度が約3倍・耐年数も約3倍・耐水性も向上します。
デメリットは、ツルツルしているが故にシームテープが貼れません。
そのため、購入後にシーリング処理をユーザーが行うことがほとんど。
自力で処理さえすれば、両面シルナイロンにデメリットは無いと感じています。
むしろ製造難易度が高いという、メーカー側の悩みが大きい印象。
以上がポリウレタンとシルナイロンのおさらいだね!
片面シルナイロンについて
製造工程を知っているわけではないですが、イメージはこんな感じ。
表面はシリコン処理、裏地はポリウレタン皮膜が施されます。
先ほどが両面シルナイロンに対して、こちらを片面シルナイロンと言います。
注意が必要なのが、片面シルナイロンもシルナイロンと大別されてしまいます。
他の方のレビューをお借りしましたが、特に格安テントは要注意。
シームテープも加水分解するものですし、シルナイロンだからと言って、普通に加水分解する素材を使っていそうです。
こんなこともあるので、片面シルナイロンが要注意な点ですね。
NEMOやMSRはちょっと違う
とあるアウトドアショップで、ニーモの新作ホーネットを見かけました。
実はニーモ、2021年頃よりシルナイロンを積極採用しています。
スペックの所にマーカーを引きましたが、20D Sil/PeU Nylon Ripstopと書かれていますね。
片面シルナイロンなのですが、PUではなくPeUです。
めっちゃ些細な違いですが、PeUは「ポリエーテルウレタン」の略。
詳しくは 【最近のテント事情】MSRとNEMOの加水分解について考える で解説していますが、加水分解しないコーティングです。
一方ニーモ・タニは、15D Sil/Silナイロンと表記されています。
これが両面シルナイロンですね。
片面シルナイロンである、ホーネットの生地を見てみましょう。
こちらが表面。
サラサラした見た目で、シルナイロンのツルツル感も手触りで感じ取れました。
こちらが裏面。
見覚えのある光沢で、よく見かけるフライシートの皮膜ですね。
触った感じは表地と全く異なり、PU(PeU)特有の摩擦感が感じられます。
こちらがひっくり返して、表面と裏地を同時撮影したもの。
見た目で質感の違いがよく分かりますね。
ちなみにこれが、ずっと使っているモンベルのステラリッジ。
こちらは完全なるポリウレタンコーティングです。
見た目や質感としては、片面シルナイロンはポリウレタンコーティングに近い分類と言えそう。
ですが、PeUだと加水分解しないのです。
そしれこれが、両面シルナイロンであるルナーソロの生地(修理用)。
どちらもサラサラツルツルしています。
摩擦が少なくて、折っても逃げてしまうので、スマホで抑えています(笑)
シルナイロンとポリウレタンの質感の違い。
イメージしてもらえましたか!
次に、3種の利点と欠点を比較していくで!
片面シルナイロンの良い所
3種の比較を表にしてみました。
素材 | 耐水 | 強度 | 劣化 | シーム | 製造難度 |
---|---|---|---|---|---|
ポリ | △ | △ | △ | ◎ | ◎ |
両面 | ◎ | ◎ | ◎ | △ | △ |
片面 | ◎ | ◎ | ◎or△ | 物による | ◎ |
分かりやすいように◎と△で表しましたが、決してポリウレタンの耐水性や強度が低いというわけではありません。
あくまでシルナイロンと比較したイメージであることを、ご理解ください。
◎or△や、「物による」としたのは、先ほど紹介したように安いテントは要注意だからです。
ちなみにですが、両面シルナイロンという優秀な素材があるのに、なぜ片面シルナイロンにすることがあるか。
決定的な事実は分かりませんでした。
メーカーに問い合わせても回答してもらえません(笑)
そりゃあ、企業秘密ですよね…
ただし、2つだけ事実として言えることがあります。
それは、シルナイロンはツルツル滑るということ。
もう一つは、それゆえに縫製難易度が上がるということ。
縫製難易度が上がることで、製造コストが上がるというデメリットもどうやらあるようです。
PU(PeU)皮膜の摩擦で、縫製が楽になるんですね。
MSRなんかも、エクストリームシールドという、加水分解しない片面シルナイロンを使い始めました。
10年以上前から、トンデモ実験をするようなブランドです。
(消防のホースで、テントに水ぶっかけ続けたりするw)
おそらく片面シルナイロンは、両面シルナイロンよりも優れるメリットがあるはずなのですが…
そこまで情報がつかめませんでした。
(今後も情報収集を続けていきます!)
仮説 ※2023 7/25 追記
一つの仮説として、片面シルナイロンはシームテープ処理ができるという事が考えられました。
片面シルナイロンのテントを購入したことで、使い勝手がハッキリと分かりました。
コチラNEMOのホーネットオズモ(片面シルナイロン)のものですが、内側へのシームテープ処理が最初から完了していました。
両面シルナイロンだと、自分でシーリング処理をしないといけませんね。
また、両面シルナイロンはその性質上、「とてもツルツル滑る」ということもデメリットにあります。
片面シルナイロンは、その辺りが克服されていますね。
シルナイロンの強度と撥水性
PeUコーティングによるシーム処理
どちらも加水分解しない
このすべてを同時に満たすのは、片面シルナイロン以外には無いという事ですね。
一つ言えることは、MSRやNEMOの上位テントは加水分解を克服しているということ!
ニーズに合わせた住み分け
ポリウレタンが合っている人
- 安価なテントしか買えない人
- お試し程度で買う人
- シーリング処理を自分でやりたくない人
- ツルツルした質感が嫌いな人
これらの人は、ポリウレタンがニーズにマッチしていると言えそう。
ちなみにですが、ポールの素材や耐風性を意識しているので、ポリウレタンのテント=安いテントではありません。
皮膜が劣化しやすいというだけで、山岳での使用はしっかり想定されています。
両面シルナイロンが合っている人
- 長くテントを大切にしたい
- 性能が良いテントが欲しい
- 人と被らないテントが欲しい
- 自分でシーリング処理をしても良い
耐水性・強度・耐年数ともに、ポリウレタンよりも高い数値を示します。
そんな性能が良いテントを長く使いたいという方は、両面および片面シルナイロンが合っているでしょう。
※やはり安価な製品は注意。
MSRの片面シルナイロンもそうですが、シーム処理をしていないことが多いです。
ですのでどちらかと言えば、片面というより両面シルナイロンに近い分類かな?
シーリング処理も愛情をもってできるような方は、シルナイロンが最適解とも言えます。
ちなみにですが、「シルナイロン=性能が高い=高価なテント」とはなりません。
お得なテントも結構ありますよ!
片面シルナイロンが合っている人
- 長くテントを大切にしたい
- 性能が良いテントが欲しい
- でもシーリング処理はしといて欲しい
大手の片面シルナイロンは、たいてい加水分解は克服していると言っても良いでしょう。
特にNEMOなんかはそうですが、最近テント生地のレベルをかなり上げています。
業界を引っ張り上げる力すらあると思っており、新技術を惜しみなく更新しています。
テント素材のレベルはもちろん、その他完成度も煮詰まっています。
素材をよく確認するとおもしろい!
ようやく両面、片面、加水分解するヤツ、しないヤツ…
色んなフライシート素材の区別が付けられるようになってきました。
こうしてみてみると、大手のブランドは加水分解に対して対策を付け始めているのですね。
加水分解代表と言われたMSRやNEMOですら、克服しているので、テント業界の未来は明るいかも!!
ちなみですが、僕が使っているモンベルのステラリッジ。
若干加水分解が始まりました…
モンベルやアライテントはそこまで加水分解を聞きませんが、PUコーティングを使い続けていますね。
なんでだろ?
いずれにせよ、素材を詳しく調べていくと面白いですね!!
ここまで読んでくれてありがとう!